「閣下のご一行の中の、女性の方が入っておいでの部屋です」
「ありがとう、ネイバー。何としても友人に追いつきたいのでね」
「お友だちはいい方でしたが、あの大柄な人には閉口しましたね。はじめてお会いになったときから、多少はましになってるんでしょうか」
「あまりなってないな。あらた
SCOTT 咖啡機めて礼を言うよ、ネイバー」スパーホークはふたたび階段を上がり、セフレーニアの部屋のドアを叩いた。
「お入りなさい、スパーホーク」
「それはやめてくれませんか」ドアを開けて騎士が言った。
「何をです」
「顔を見る前に名前を呼ぶのですよ。せめて誰がノックしてるのかわからないってふりくらいできないんですか」
セフレーニアは笑った。
「マーテルは二日前にここを通ってます。この部屋に泊まってたんですよ。この事実は何か役に立ちますか」
教母はしばらく考えこんだ。
「ええ、たぶん。どんなことを考えているのです、スパーホーク」
「やつの計画がわかると助かるんですがね。われわれがすぐ背後に迫っていることは承知してるでしょうから、何か妨害することを考えているはずです。どんな罠を仕掛けてくるのか知りたいですね。二日前の情景が覗《のぞ》けないでしょうか。話を聞くだけでもいい」
教母はかぶりを振った。「遠すぎます」
「まあ、だめでもともとですから
SCOTT 咖啡機ね」
「そうとも限りませんよ」セフレーニアはさらに考えこんだ。「そろそろベーリオンのことをもう少しよく知っておくべきではありませんか、スパーホーク」
「どういう意味です」
「ベーリオンとトロールの神々と指輪には、何らかのつながりがあります。それを探ってみましょう」
「どうしてトロールの神々がここに出てくるんです。ベーリオンを使う手段はあるんですから、トロール神なんて放っておけばいいじゃないですか」
「ベーリオンにこちらの言うことが理解できるとは思えないのです。たとえ理解できるとしても、命令に従うためにベーリオンが何をしているのか、わたしたちには理解できないでしょう」
「洞窟は崩せましたよ」
「あれは単純なことでしたからね。今度の命令はだいぶ込み入っています。トロール神に話しかけるほうが、ずっと簡単でしょう。できればトロール神たちがどのくらいベーリオンと深い関係にあるのか知りたいですし、ベーリオンを
SCOTT 咖啡機使って、どの程度トロール神を操れるのかも知っておきたいのです」
「つまり実験をしたいんですね」
「そういう言い方もあるでしょう。どうせ実験をするなら、差し迫った事情がないうちにやっておきたいですからね。実験の結果にわたしたちの命がかかっているような状況でやるよりも、そのほうが安全でしょう。ドアに鍵をかけてください。ほかの人たちはまだ巻きこみたくありません」
スパーホークはドアを閉め、鉄のボルトをかけた。
「トロール神と交渉を始めたら、考えている時間はないでしょう。始める前にすべてを考えておくのです。とにかく命令をするだけで、ほかのことは何もしてはいけません。質問をしたり、説明を求めたりしないように。ただなすべきことを命令して、向こうがどうやってそれを実行するかは気にしないことです。二度眠る前にこの部屋にいた男のしていることを見聞きしたい。それだけです。その情景は――」と部屋の中を見まわして暖炉を指差し、「――あそこに映し出させなさい。ベーリオンには、トロール神と話をすると言うのです。クワジュがいいでしょう。トロールの火の神です。炎と煙をつかさどる、いちばん論理的な神ですから」セフレーニアはトロールの神々について、これまで口にしたよりもずっと多くを知っているようだった。
「クワジュですね」ふと思いついて、スパーホークは尋ねた。「トロールの食の神の名前は何というんです」
「ノームですが、なぜです」
「まだ考えてる途中なんですが、うまくまとまったら試してみてもいい」
「不意打ちはやめてください。わたしがどう感じるかは知っているでしょう。では籠手《こて》を取って、ベーリオンを袋からお出しなさい。ないように。指輪がいつも宝石に触れているように気をつけて。トロール語はまだ覚えていますか」
「ええ、アラスと練習してましたから」
「よろしい。ベーリオンに話しかけるのはエレネ語で構いませんが、クワジュとはトロール語で話さなくてはならないでしょう。今日あなたがしたことを、トロール語で話してごらんなさい」
はじめのうちはつっかえつっかえだったが、しばらく話しているうちにだいぶ調子が戻ってきた。エレネ語からトロール語に切り替えると、考え方までが大きく変化する。トロール的なものの考え方が、言語そのものの中に潜んでいるのだ。あまり愉快な考え方ではないし、エレネ人の心にはまったく異質のものだが、いちばん深い、もっとも原初的な部分では、どこかしら通じ合うものがある。
「いいでしょう。暖炉の前に立って。始めましょう。意志を鉄のようにするのですよ。ためらったり、説明したりしてはいけません。ただ命令するのです」
スパーホークはうなずいて、籠手をはずした。血のように赤い二つの指輪が炎に輝いている。騎士は外衣《サーコート》の中に手を入れ、小袋を取り出した。教母と二人、暖炉の中のはぜる炎を見つめる。
「袋を開きなさい」セフレーニアが言った。
スパーホークが結び目をほどく。