一夜あけた翌朝はさわやかな快晴だった。空は真っ青で、都のうしろにそびえる白い山並に陽ざしがきらめいていた。朝食後、ミスター?ウルフはその日もまたポルおばさんと二人でフルラクやアローンの王たちと密談すると発表した。
「名案だよ」バラクはいった。「陰気な考えごとは王たちにぴったりだ。しかし王の義務を持たない者にとっちゃ、きょうは室内ですごすには惜しいような上天気だな」かれはいとこを見て、ざまあみろというようににやにやした。
「意外におまえは残酷なところがあるようだな、バラク」アンヘグ王は最寄りの窓の外へうらめしげに目を走らせて言った。
「今でもイノシシは森のはしまでやってくるかい?」バラクは訊いた。
「群れをなしてな」アンヘグはいよいよつまらなそうに答えた。
「腕のいいのを数人集めて、イノシシの数をちょっと減らせるかどうか出かけてみようと思ったんだ」バラクはますます歯をむいて笑いながら言った。
「おおかたそんなことだろうと思ったよ」アンヘグはむっつりそう言うと、くしゃくしゃの頭をかいた。
「おれはあんたに貢献しているんだぜ、アンヘグ。この王国を獣だらけにしたくはないだろう?」
ドラスニアの肥ったローダー王が大笑いして言った。「一本とられたようだな、アンヘグ」
「いつものことだ」アンヘグは渋い顔でうなずいた。
「わたしならそういうことは喜んでもっと若くてスマートな連中にまかせるね」ローダーは言った。かれは両手で大きく突き出た腹をたたいた。「うまい食事はいっこうにかまわんが、最初にそいつと格闘するのは遠慮したい。わたしは恰好の標的だからな。世界一目の悪いイノシシでもわたしを見つけるのに苦労はいらん」
「それじゃ、シルク。あんたはどうだい?」バラクは言った。
「本気じゃないだろうな」とシルク。
「行かなけりゃいけないわ、ケルダー皇太子」ポレン王妃が主張した。「だれかがこの冒険でドラスニアの名誉を代表しないとね」
シルクは気の進まぬ顔だった。
「わたしの勝利者になれてよ」ポレン王妃は目を輝かせた。
「またアレンドの叙事詩を読まれたんですか、妃殿下?」シルクはむっつりとたずねた。
「国王の命令だと思いなさいな。新鮮な空気と運動は決して害にはならないわ。あなたこのところ元気がないもの」
シルクは皮肉っぽく頭をさげた。「お望みどおりに、妃殿下。もし手に負えぬ事態になっても、いつでも木に登れるでしょうから」
「あんたはどうだ、ダーニク?」バラクが訊いた。
「狩りのことはあまり知らないんですよ。バラク」ダーニクは疑わしげに言った。「しかし、よろしかったらお伴しましょう」
「いかがです?」バラクは丁重にセリネ伯爵にたずねた。
「とんでもないよ、バラク卿」セリネは笑った。「そういう楽しみに熱中したのは何年も前のことだ、もう齢だからな。しかしお誘い感謝するよ」
「ヘターは?」バラクはやせたのっぽのアルガー人にたずねた。
ヘターはすばやく父親に目をやった。
「行っておいで、ヘター」チョ?ハグは低い声で言った。「歩かねばならんときは、きっとアンヘグ王が介助する戦士を貸してくれる」
「わたしが自分で手をかすよ、チョ?ハグ」アンヘグが言った。「もっと重い荷物を運んだこともあるんだ」
「ではご一緒します。バラク卿」ヘターは言った。「誘ってくれてありがとう」かれの声は太く、よくひびいたが、父親によく似てたいそう低かった。
「さてと、どうだ?」バラクがガリオンに訊いた。
「気でもちがったの、バラク?」ポルおばさんがぴしゃりと言った。「きのうじゅうぶんガリオンを面倒事にひっぱりこんだのじゃなかった?」
もうたくさんだった。バラクに声をかけられて高揚していた気分がとたんに怒りに変わった。ガリオンは歯ぎしりして、慎重な態度をいっぺんにかなぐりすてた。「バラクがぼくを邪魔だと思わないなら、ぼくは喜んで行く」かれは喧嘩ごしで宣言した。
ポルおばさんは急にけわしい目をしてガリオンをじっと見つめた。
「おまえの赤ん坊にも歯が生えてきたな、ポル」ミスター?ウルフが愉快そうに笑った。
「黙っていてちょうだい、おとうさん」ポルおばさんはガリオンをにらんだまま言った。
「今回はそうはいかん」老人は皮肉めいた声で言った。「あの子は自分で決定をくだしたんだ。それをぶちこわしてあの子に恥をかかせるような真似はするな。ガリオンはもう子供じゃない。おまえは気づいておらんかもしれんが、背丈も体格も今では大人並みだ。もうじき十五歳になるんだぞ、ポル。これからはおまえもときどき手綱をゆるめねばならんし、かれを大人並みに扱うには今がいいチャンスだ」
彼女はしばらく老人を見つめていた。「なんとでもおっしゃるとおりに、おとうさん」と、うわべはおとなしく言った。「でも、あいたいわ――二人だけで」
ミスター?ウルフはたじろいだ。
それからポルおばさんはガリオンを見て言った。「用心するのよ。帰ったら、二人でじっくり話しあいましょう、いいわね」
「狩りにお出かけの用意をお手伝いする必要がございますか?」レディ?メレルが例によって固苦しいばかにしたような態度でバラクにたずねた。
「それにはおよばん、メレル」バラクは言った。
「義務を怠りたくはございません」
「かまわんでくれ、メレル。おまえの主張が正しいことはわかっている」
「では失礼してよろしいでしょうか?」
「ああ」バラクは短く言った。
「ご婦人がたはわたくしのところへいらしたらいかがかしら?」イスレナ王妃が言った。「占いで狩猟の成果を予想してみましょうよ」
チェレクの王妃のやや後方に立っていたポレン王妃は、観念したように天井を仰いだ。シラー王妃がそれを見て微笑した。
「じゃ、行こう。イノシシどもがお待ちかねだ」バラクは言った。
「きっと牙をといでいるぞ」とシルク。